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消防用設備等の維持管理は保険である

防火対象物の関係者の方にとって消防用設備等はどのような存在ですか?

お金しかかからない邪魔な存在ですか?

それとも有事の際の心強い味方ですか?

そんな邪険に扱われがちな消防用設備等について筆者個人的な見解をお話させていただきます。
(※以下の内容は筆者の個人的な見解であり、内容を保証するものではありません)

 

まず消防用設備等とは

そもそも消防用設備等とはどのようなものなのでしょうか?

日本に存在する建物は一部を除き「防火対象物」というくくりで消防法の適用を受けます。

この防火対象物はその規模・構造や用途・収容人員等によって「消防用設備等」と呼ばれる設備を消防法令に沿って設置を義務づけられています。

例えば

  • 火災の発生を感知して在館者へ火災の発生を知らせる自動火災報知設備
  • 発生してしまった火災を消火するための消火栓
  • 避難者を地上(又は避難場所)へ誘導する誘導灯

これらの設備は万が一火災が発生してしまっても人命や財産への被害を最小限に抑える目的で設置されます。

もちろん設置して終わりではなく、火災はいつ発生するかわかりませんから、いつ火災が発生しても消防用設備等が100%その能力を発揮できるように定期的に維持管理を行う必要があります、そうです。いわゆる「消防点検」というものです。

この消防用設備等はとても複雑難解な設備であり、設置も点検もいわゆる「有資格者(消防設備士等)」でなければ業務に従事できないとされています。(一部例外あり)

それもそのはず、普段の生活において消防用設備等は使いませんし皆さんにおいても気にもとめないでしょうし、「あっそんな設備があるんだね」くらいの認識だと思います。

ですがひとたび火災が発生すれば消防用設備等はその性能を100%発揮して皆さんの生命・財産を守る!という使命を背負っていますから、いざという時にフルに性能を発揮させるための知識や技術を持ち合わせている有資格者でなければ点検できません。

このように消防用設備等は我々の生活を影ながら見守ってくれている存在なのです。

 

消防用設備等の維持管理について

上記でもお話しましたように消防用設備等は定期的な維持管理も消防法令で義務付けており、年2回点検を行う必要があります。

この点検には「機器点検」と「総合点検」に分かれており、機器点検は主に外観から判断するもの及び簡単な操作によって機器が正常かどうかを判断する点検で年2回行い、総合点検は設備の一部又は全てを作動させて総合的に機器の状態を判断する点検で年1回行いますので、半年に1回「機器点検」を行い、そのまた半年後に「機器点検+総合点検」を行って設備が正常に作動するかの確認を行います。

そしてこれらの点検の結果は消防機関(消防本部又は消防署)へ定期的に報告する必要があるので、点検を行ったら年1回(又は3年に1回)消防機関へ「消防用設備等点検結果報告書」という書類を提出して設置してある設備がどのような状態にあるかを報告します。

ではなぜこのような点検や報告を行うのでしょうか?
皆さんが普段使っている車を例えにお話します。

車には色々な部品が使われおり、素人が簡単に整備できるものではありませんから、自動車整備士という資格を持っている方が適正な知識と技術で整備を行うことにより私たちは安全安心なカーライフを送ることができます。

車にも定期的に「車検」というものがあり、使っている車が法令に違反していないか、また安全に使用できる状態かを確認して適正な整備をするもので、これは消防用設備等でいえば「点検結果報告」に該当し、この車検が通らないと車を使えなくなるのと同じで、点検結果報告に不備があれば消防機関から速やかに改善するように通知が来ます。

この他にも車のオイル交換やタイヤの空気圧調整、バッテリーの状態確認といった定期点検を行いますが、これは消防用設備等でいえば「消防点検」に該当して各消防用設備等の機器を点検することで設備が壊れていないか、正常に動くかを確認して必要であれば整備を行います。

車は普段使うものなので皆さんは車検やオイル交換というものをよく知っておられるかと思いますが、消防用設備等においてもこれらの点検や報告が必要だということも忘れないでいただけると幸いです。

 

維持管理しないとどうなるの?

ここまで消防用設備等は定期的な維持管理を行って点検結果報告を行うという事をお話させていただきましたが、これらも車の維持管理と同様にお金がかかるものになるので、ついつい後回しにしてしまいがちです。

ではこの維持管理をしないとどうなるのかをお話します。

まず1つ目は「設備が動かなくなる若しくは壊れる」です。

車も定期的な整備をしなかったり長期間ほったらかしにしたりすると不具合が生じたり最悪壊れてしまいますが、消防用設備等も同じで腐食したり動きが渋くなったりして急速に劣化します。

消防用設備等は普段使いませんから特に注意が必要で、普段から気にかけて定期的に点検整備することによりいざという時にその効力を発揮しますので、維持管理しないということは火災発生の際に正常に作動せず人命や財産に多大な損害を与えてしまう恐れがあります。

2つ目は「建物を使えなくなる恐れ」があります。

消防用設備等は消防法令により維持管理が義務付けられていますので、消防点検をせずに点検結果報告をしないと消防機関が立入検査にやってきて建物の防火管理が適切に行われているか、消防用設備等の維持管理は適切かということを事細かに確認しに来ます。

ここで消防点検などの維持管理や防火管理が適正にできていないことが発覚すると改善を指示されます(いわゆる行政指導)。

この行政指導には段階があり

  1. 行政指導
  2. 警告
  3. 命令(公示)
  4. 告発

という流れで段々その強さを増していき、最終的には「この建物は危険であり使用することは第三者に危険を及ぼす危険性がある」と判断されて「防火対象物使用停止」という命令を発することがあり、この命令が発せられると不備を改善して許可がでるまで建物を使用することができなくなってしまいますし、罰金や拘留ということになる可能性もあります。

告発や命令が出るまで改善を行わない方はそうそういらっしゃらないとは思いますが、維持管理を行わないということはこれらのリスクを負うことになるので、お金が無いとかもったいないという理由で維持管理を行わないのはとても危ないことなのです。

 

維持管理は保険です

ではタイトルにも記載があった「保険」ということについてお話したいと思います。

皆さんが普段使用している車にも任意保険をかけていると思いますが、これは万が一の事故の際に相手方への補償をおこなう為に加入しているもので、事故を起こさなければいわゆる「掛け捨て」の保険であるのでいつも安全運転していればなんかもったいないような気もしますけど保険に入らないという選択肢はありませんよね。

消防用設備等の維持管理もこれと同じだと筆者は考えています。

なぜなら万が一火災が発生してしまった場合に

  • 自動火災報知設備が作動せずに火災の報知が遅れ多数の方が逃げ遅れて被害者がでた
  • 消火栓が作動せずに火災が拡大してしまい隣の建物も全焼してしまった
  • 避難誘導灯が故障しており逃げ道がわからなくなった避難者が避難できなかった

このようなことになってしまえば建物の管理権原者(防火対象物や建物の管理について権原を有する者のことを指し、消防法上の用語で、防火管理の最終責任者のこと)は被害に対して賠償をしなければなりません。

もちろんそれだけではなく、火災で被害者が出てしまった場合には「業務上過失致死傷罪」という罪に問われる可能性もあり、この場合には裁判を通して禁固といった実刑判決を受ける場合もあり、これらは過去の大規模火災の判例からも確認できます(ホテル・ニュージャパン火災など)。

もちろん消防用設備等が完全に作動したり防火管理が適切だったりしたとしても被害者が出てしまうこともあるかもしれませんが、この場合には業務上過失致死傷罪に問われることは限りなく少ないと考えます。
なぜなら建物の関係者はやるべきことをしっかり行っているので、これを過失と判断するのは難しいからです。

裁判所も維持管理が適切だったのであれば「被害者がでてしまった」と考えるでしょうし、維持管理がなされていなければ「被害者がでるのは当然」と考えるでしょう。

これらの事例を鑑みれば消防用設備等の維持管理がいかに大切な事であるかが理解していただけると思います。

 

最後に

最後までご一読いただきありがとうございます。

我々消防設備士が携わる「消防用設備等」は普段使用されないことからとても軽視されがちですが、上記で述べたとおりとても大切な設備なのです。

維持管理にはお金がかかるので多くの方は「コスト」と思いがちですが、筆者は「保険」と考えています。

これらをどのように考えるかは人それぞれですが、維持管理を行わない時の「リスク」は知っておくほうが良いと思いこの記事を執筆しました。

この記事を1人でも多くの方が見てくださりすこしでも日本の火災予防になることを願って筆をおきます。

 

この記事の執筆者
合同会社Nワークス 代表 中島 健
ウェブメディア「だれでもわかる消防用設備」筆者
日々現場にて自ら工事点検を行い知識・技術を習得する傍ら、教育事業として独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(ポリテクセンター)にて消防用設備に関わる講師や、同業他社への実技教育やウェブ記事の作成、各種団体へのオンライン勉強会実施など「教育は業界を変える」という志で日々活動中

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